「また怒鳴られた」
「腕をつかまれた」
「介助中に叩かれた」
「物を投げられた」
介護の仕事をしていると、利用者さんから強い言葉を受けたり、暴力的な行動に遭ったりすることがあります。
認知症がある。
病気の影響がある。
不安や混乱が強い。
本人に悪気がない。
そういった背景があることも、介護職なら理解していると思います。
だからこそ、
「仕方ないよね」
「介護職なんだから我慢しないと」
と、自分の気持ちを押し込めてしまう人もいます。
でも、私はそれで終わらせていいとは思いません。
利用者さんに事情があることと、
介護職が暴言や暴力を受け続けなければならないことは別です。
介護職も一人の人間です。
怖いものは怖い。
痛いものは痛い。
何度も強い言葉を浴びれば、気持ちも削られます。
そして、職員が疲弊した状態で良い介護を続けることも難しくなります。
この記事では、
- 利用者さんから受ける暴言・暴力にはどんなものがあるのか
- 認知症だから仕方ないのか
- 暴言・暴力を受けたときにどう対応するか
- 記録には何を残したらいいのか
- 上司や管理者にどこまで相談するべきか
- 職場が守ってくれない場合どう考えるか
について、現場を知る立場からできるだけ現実的に話していきます。
利用者からの暴言・暴力は「介護職なら仕方ない」で済ませない
介護職をしていると、
「認知症だからしょうがない」
という言葉を耳にすることがあります。
たしかに、認知症によって状況を理解できなかったり、強い不安から拒否的な言動が出たりすることはあります。
本人の性格だけで説明できない行動もあります。
だから介護職には、
「なぜこの行動が起きているのか」
を考える視点が必要です。
でも、
原因を理解することと、職員が耐え続けることは同じではありません。
たとえば、
介助に入るたびに叩かれる。
毎日のように「死ね」「役立たず」と言われる。
腕をつかまれる。
蹴られる。
物を投げられる。
こうしたことが続けば、どんな人でも疲れます。
特に問題なのは、
職員が相談しているのに、
「介護なんだから仕方ない」
「あなたの声かけが悪いんじゃない?」
「みんな我慢してるよ」
で終わってしまうことです。
もちろん、介助方法や声かけを見直す必要がある場合もあります。
でも、そこだけで片づけてしまうと、
暴言や暴力を受けた職員が、
「自分が悪かったのかもしれない」
と抱え込んでしまいます。
介護は、
利用者さんを守る仕事であると同時に、
働いている職員の安全も守らなければ続きません。
利用者からの暴言・暴力にはどんなものがある?
「暴力」と聞くと、
殴る。
蹴る。
といった行為を想像するかもしれません。
でも、介護現場で職員が受ける負担はそれだけではありません。
暴言
たとえば、
「バカ」
「死ね」
「役立たず」
「お前なんて辞めろ」
などの強い言葉。
一度だけなら流せる人もいるかもしれません。
でも、それが毎日のように続けば精神的な負担になります。
特に、
特定の職員だけを狙って言う。
人格を否定する。
家族や容姿まで侮辱する。
といったケースでは、かなりつらくなります。
身体的な暴力
介助中に、
叩く。
蹴る。
引っかく。
噛む。
つねる。
腕をつかむ。
髪を引っ張る。
物を投げる。
といった行動が起きることがあります。
利用者さん本人に大きな力がないように見えても、突然の動きは危険です。
車いすやベッド周辺など狭い場所で起きれば、職員自身が転倒することもあります。
威嚇するような行動
直接殴らなくても、
拳を振り上げる。
物を持って近づく。
大声で怒鳴り続ける。
進路をふさぐ。
など、職員が恐怖を感じるケースもあります。
「実際には殴られていないから」
で終わらせる必要はありません。
怖かったという事実も、重要な情報です。
性的な言動
身体に触る。
性的な言葉を繰り返す。
介助中に不必要な接触をする。
こうした行動もあります。
これも、
「高齢者だから」
「冗談だから」
で我慢し続ける必要はありません。
利用者さんの状態や認知機能に応じた対応は必要ですが、職員側の負担も含めてチームで考えるべき問題です。
なぜ利用者さんは暴言や暴力をしてしまうのか
暴言や暴力があったとき、
「この人は乱暴な人だから」
で終わらせないことも大切です。
介護では、
行動の背景を考える
ことが重要になります。
不安や恐怖がある
たとえば排泄介助。
本人からすると、
知らない人が突然身体に触れてきた。
服を脱がされた。
と感じている可能性があります。
介護職には必要な介助でも、本人には状況が理解できていないことがあります。
その結果、
「やめろ!」
と叩いたり、抵抗したりする。
これは珍しいことではありません。
痛みがある
身体に痛みがあると、
普段は穏やかな人でも強い反応をすることがあります。
関節痛。
皮膚トラブル。
骨折。
便秘。
褥瘡。
本人がうまく痛みを伝えられない場合、
介助拒否や攻撃的な行動として出ることもあります。
認知症による混乱
認知症が進むと、
今いる場所。
相手が誰なのか。
何をされているのか。
が分からなくなることがあります。
職員は、
「いつもの介助」
と思っていても、
本人にはそう見えていないことがあります。
環境が合っていない
騒がしい。
人が多い。
眠い。
暑い。
寒い。
空腹。
こうした小さなことがきっかけになる場合もあります。
つまり、
暴言や暴力が起きたときには、
「本人が悪い」
だけでも、
「職員が悪い」
だけでもなく、
何が引き金になっているのか
を見る必要があります。
暴言や暴力を受けたら、まず「安全」を優先する
実際に暴力が起きたとき、
「介護士なんだから落ち着かせないと」
と頑張りすぎる人がいます。
でも、まず大切なのは安全です。
危険を感じたら距離を取る
利用者さんが興奮しているとき、
無理に説得しようとして近づき続けると、さらに興奮する場合があります。
一度距離を取る。
別の職員に交代する。
時間を置く。
これも立派な介護です。
「その場から離れたら負け」
ではありません。
むしろ、
無理に対応を続けて双方がけがをするほうが問題です。
一人で対応しない
暴力の可能性がある利用者さんに対して、
一人で無理に介助しない。
応援を呼ぶ。
二人で対応する。
職員を交代する。
こうした対応を取ります。
ただし、
「暴れるから大人数で囲む」
という意味ではありません。
人数が増えることで本人がさらに不安になる場合もあります。
利用者さんの状態を見ながら、必要な人数で安全を確保します。
興奮しているときに言い返さない
暴言を受けると、
こちらも感情的になることがあります。
でも、
「そんな言い方しないでください!」
と強い口調で返すと、さらに興奮することがあります。
その場では、
「分かりました」
「少し時間を置きますね」
など、短い言葉で一度離れる。
落ち着いてから再度対応する。
それだけで変わることもあります。
暴言・暴力があったら必ず記録に残す
これはかなり大切です。
暴言や暴力があったとき、
「いつものことだから」
と記録しない人がいます。
でも、
記録がなければ、起きていないのと同じように扱われてしまうことがあります。
記録する内容
できるだけ客観的に残します。
たとえば、
「暴言あり」
だけではなく、
いつ。
どこで。
何をしているとき。
どんな言葉を言ったか。
どんな動きがあったか。
職員がどう対応したか。
その後どうなったか。
まで残します。
「怒っていた」だけではなく具体的に書く
たとえば、
「利用者怒る」
ではなく、
14時10分、排泄介助の声かけ時、「触るな」と大声あり。右手で職員の左前腕を叩く。いったん居室を退出し、10分後に別職員が対応。再介助時は拒否なく実施。
というようにします。
これは、
誰かを責めるための記録ではありません。
何が起きたのかを共有し、
次の対応につなげるための記録です。
同じ行動が繰り返されているか分かる
記録を積み重ねると、
朝に多い。
入浴前に多い。
男性職員では起きない。
特定の介助で起きる。
といった傾向が見えることがあります。
そこから、
時間を変える。
声かけを変える。
職員を変える。
介助方法を変える。
といった対策につながります。
「その人だから仕方ない」ではなくチームで対応する
利用者さんの暴言や暴力を、
特定の職員だけに背負わせるのは良くありません。
たとえば、
「○○さんなら慣れてるからお願い」
となることがあります。
確かに、その職員だと利用者さんが落ち着くこともあります。
でも、それが毎回になると、
その人だけが負担を抱えることになります。
ケースとして共有する
申し送り。
カンファレンス。
ケア会議。
こうした場で共有します。
「○○さんが大変」
ではなく、
どういう状況で行動が出ているのか
を話します。
対応方法を統一する
職員によって、
強く注意する人。
全部言うことを聞く人。
すぐ離れる人。
とバラバラだと、利用者さんも混乱します。
できる範囲で、
声かけ。
介助順序。
距離の取り方。
職員交代のタイミング。
などを決めておくと対応しやすくなります。
必要なら医療職にも相談する
突然攻撃的になった。
いつもと様子が違う。
こうした場合は、
体調変化や薬の影響なども考えます。
看護師。
医師。
ケアマネジャー。
必要な職種と連携します。
介護職だけで全部解決しようとしなくていいんです。
管理者側がやるべきこと
職員から、
「利用者さんに叩かれて怖いです」
と言われたとき、
管理者側が、
「認知症だから仕方ないよ」
で終わらせてしまうのは良くありません。
管理する側には、
まず職員の話を聞くこと。
何が起きているのか確認すること。
対応方法を考えること。
が必要だと思っています。
まず事実を確認する
いつ。
どこで。
何をしているとき。
どんな行動があったか。
職員にけがはないか。
他の職員にも同じことが起きているか。
ここを確認します。
職員を責めるところから始めない
もちろん、
不適切な声かけ。
乱暴な介助。
などがあれば改善は必要です。
でも、相談してきた職員にいきなり、
「あなたの対応が悪いんじゃない?」
と言うと、もう相談できなくなります。
まずは事実を聞く。
そのあと、
どうすれば改善できるか一緒に考える。
順番が大事です。
対応を現場任せにしない
「気をつけて介助してください」
だけでは解決しません。
二人介助にする。
時間を変える。
担当をローテーションする。
ケア方法を変更する。
医療職に相談する。
家族とも情報共有する。
必要に応じて具体策を考える必要があります。
暴力を受けて怖くなったら、無理に担当し続けなくていい
一度強い暴力を受けると、
次にその利用者さんへ近づくだけで怖くなる人もいます。
これはおかしいことではありません。
また叩かれるかもしれない。
また怒鳴られるかもしれない。
そう考えるのは自然です。
それなのに、
「プロなんだから怖がるな」
と言われても難しいです。
一時的に担当を変える。
他職員と一緒に入る。
少し距離を置く。
そういう対応があってもいいと思います。
介護職だから、
感情まで消せるわけではありません。
職場が何もしてくれない場合はどうする?
ここはかなり重要です。
暴言や暴力がある。
何度も上司に相談した。
記録も残した。
それでも、
「しょうがない」
で終わる。
そんな職場もあります。
もし、
けがをしている。
精神的にかなりつらい。
毎日その利用者さんの担当にされる。
相談しても対策がない。
こうした状態が続いているなら、
その職場で働き続けること自体を考えてもいいと思います。
介護職は、
利用者さんを大切にする仕事です。
でも、
職員を守らない職場が、良い介護を長く続けることも難しい
と私は思います。
利用者さんの安全も大事。
職員の安全も大事。
どちらかだけを守ればいいわけではありません。
暴言や暴力を理由に「介護職に向いてない」と思わなくていい
利用者さんから暴言や暴力を受けて、
「自分は介護職に向いてないのかも」
と思う人もいます。
でも、
怖いと感じること。
腹が立つこと。
傷つくこと。
それだけで、
介護職に向いていないとは思いません。
むしろ、
何も感じなくなるほうが心配です。
大切なのは、
感情をそのまま利用者さんへぶつけることではなく、
自分の感情に気づいて、
周囲に相談することです。
「今日の対応、かなりつらかったです」
その一言を言えるだけでも違います。
まとめ|利用者さんの事情を理解することと、我慢することは違う
介護職として働いていると、
利用者さんから暴言や暴力を受ける場面があります。
認知症。
不安。
痛み。
体調。
環境。
そこには、さまざまな理由があるかもしれません。
介護職として、
その背景を考えることは大切です。
でも、
理由があるから、職員が何をされても我慢しなければならない
ということではありません。
暴言や暴力があったら、
安全を確保する。
一人で抱えない。
記録に残す。
職員間で共有する。
介助方法を見直す。
必要な職種と連携する。
そして、
管理者や職場全体で対応する。
ここまで含めて介護だと思います。
もし今、
「また明日あの利用者さんのところに行くのが怖い」
と思っているなら、
一人で抱え込まないでください。
介護職は、
利用者さんを守る仕事です。
同時に、
介護をする人自身も守られていい仕事です。