「利用者さんへの介助より、ご家族対応のほうがしんどい」
介護現場では、そんな声を聞くことがあります。
もちろん、多くのご家族は職員に協力的です。
感謝の言葉をかけてくれる方もいますし、こちらの説明を理解して一緒に考えてくれる方もいます。
でも一方で、
「前はやってくれたのに」
「家ではできていた」
「もっとちゃんと見てください」
「どうしてすぐ連絡をくれなかったんですか」
「他の施設ではやってくれると思うんですけど」
そんな言葉を受けることもあります。
内容によっては、もっと強い口調で責められることもあります。
現場職員からすると、
「自分はできることをやっているのに」
と感じることもあると思います。
でも、そこで全部を自分一人で抱え込む必要はありません。
家族対応は、介護職個人の問題ではなく、施設全体で考えるべき仕事です。
この記事では、
- なぜ家族対応がつらくなりやすいのか
- クレームと正当な要望の違い
- 「前はやってくれた」と言われたときの考え方
- 無理な要求にどこまで応えるべきか
- 現場職員だけで抱え込まなくていいケース
- 管理者に上げるタイミング
- 記録に何を残しておくべきか
- 家族との関係を悪くしすぎない伝え方
について、現場と管理する側の両方の視点から話していきます。
介護職の家族対応がつらくなるのは珍しいことじゃない
介護職は、利用者さんだけを支援する仕事ではありません。
施設やサービスによって違いはありますが、ご家族とのやり取りも大きな仕事の一つです。
たとえば、
体調変化の報告。
受診の相談。
衣類や日用品のお願い。
ケア内容の説明。
事故報告。
食事量や生活状況の共有。
面会時の対応。
契約やサービス内容に関する相談。
こうしたことがあります。
ご家族も、大切な家族を預けています。
不安があるのは当然です。
だから、確認したいことも増えます。
でも、その不安が強くなりすぎると、
職員への強い要求。
何度も同じ確認。
一方的な叱責。
細かすぎる指示。
につながることがあります。
ここで介護職が疲れてしまいます。
特に、
「何を言っても納得してもらえない」
「毎回同じ説明をしている」
「電話が鳴るたびに緊張する」
という状態になると、かなり消耗します。
家族からの「要望」と「クレーム」は分けて考える
家族対応が難しくなる理由の一つが、
すべてを「クレーム」と受け取ってしまうことです。
でも実際には、
正当な要望。
確認。
不安。
不満。
苦情。
強い要求。
全部同じではありません。
ここを分けて考えると、少し対応しやすくなります。
正当な要望
たとえば、
「最近食事量が落ちているようですが、どんな様子ですか?」
「転倒が続いているので、対応方法を教えてください」
こうした内容は、家族として当然の確認です。
少し強い口調だったとしても、
内容自体は妥当かもしれません。
改善が必要な指摘
職員側の説明不足。
連絡漏れ。
対応のばらつき。
こうしたことを指摘されることもあります。
この場合は、
「家族がうるさい」
で終わらせるのではなく、施設側も見直したほうがいいです。
無理な要求
一方で、
契約や人員体制を超える対応。
他利用者への支援に影響する要求。
特定職員への過度な指名。
施設では対応できない医療的行為。
頻繁すぎる個別連絡。
こうしたものは、すべて受ければいいわけではありません。
介護職として大切なのは、
「家族の要望だから全部やる」でも、「クレームだから全部拒否する」でもないことです。
「前はやってくれた」と言われたときに困る理由
介護現場でかなり対応が難しい言葉の一つが、
「前はやってくれたのに」
です。
たとえば、
以前の職員が特別にやっていた。
その日の状況で一度だけ対応した。
前の施設ではやっていた。
家族側がサービス内容だと思っている。
こうしたことがあります。
現場職員からすると、
「それは今のルールではできない」
と思っていても、
家族からすると、
「今までできていたのに、急に断られた」
と感じます。
ここで対応を間違えると、関係が悪くなります。
「できません」で終わらせない
ただ、
「それはできません」
だけで終わると、相手は納得しにくいです。
なぜできないのか。
今はどういうルールなのか。
代わりに何ならできるのか。
ここまで説明すると印象が変わります。
たとえば、
「以前は個別に対応したことがあったかもしれません。ただ、現在は他のご利用者との公平性もあるため、毎回同じ対応は難しいです。その代わり、○○であれば対応できます」
という伝え方です。
大切なのは、
断るだけではなく、代替案を示すことです。
家族の要求を全部受けることが「良い介護」ではない
介護職は優しい人が多いです。
だから、
「せっかくお願いされたし」
「断ったらかわいそう」
「怒らせたくない」
と考えて、できる限り応えようとします。
でも、全部受けてしまうと、あとで問題になることがあります。
一度やる。
次も頼まれる。
別の職員にも同じことを求められる。
「前はやってくれた」
となる。
こうして、いつの間にかルールのようになってしまいます。
一人だけ特別対応すると不公平になる
たとえば、
毎日特定の時間に家族へ電話する。
特別な買い物を職員が行う。
個人的な私物管理を細かく行う。
こうしたことを一人の利用者さんだけに行えば、他の利用者さんとの公平性の問題も出ます。
介護施設は、一人だけを支援する場所ではありません。
だから、
個別の要望をどこまで受けるかは、施設として考える必要があります。
現場職員だけで抱え込まなくていい家族対応
家族対応には、
現場職員で対応できるもの。
管理者や相談員に上げたほうがいいもの。
があります。
現場で対応しやすいもの
たとえば、
「今日の食事はどれくらい食べましたか?」
「今日はどんな様子でしたか?」
といった日常的な質問。
これは普段の様子を知っている介護職が答えやすいです。
上司に上げたほうがいいもの
一方で、
金銭。
契約。
施設運営。
重大事故。
職員への苦情。
サービス内容の変更。
強いクレーム。
こうした内容は、現場職員がその場で判断しないほうがいいです。
特に、
「じゃあ責任者を出してください」
となるような内容なら、早めに上司につなぐほうが安全です。
現場職員がその場で何とかしようとすると、
言った。
言わない。
そんなつもりではなかった。
という問題につながります。
「自分が対応しないと」と思いすぎなくていい
真面目な職員ほど、
自分が最初に話を聞いたから、
最後まで自分で対応しないと。
と考えます。
でも、
家族対応は個人戦ではありません。
施設として答えるべきことは、
施設として答えればいいです。
「私では判断できないので、責任者に確認します」
と言って大丈夫です。
むしろ、
分からないのにその場で答えるほうが危険です。
介護職は、
なんでも答えられる人になる必要はありません。
必要な人につなげることも、立派な対応です。
家族対応で記録を残すことはかなり大切
家族対応でトラブルが起きたとき、
あとから一番困るのが、
「誰が何を言ったのか分からない」
という状態です。
だから、
重要なやり取りは記録に残しておいたほうがいいです。
記録する内容
できるだけ具体的に残します。
いつ。
誰から。
どんな連絡があったか。
何を求められたか。
こちらがどう説明したか。
相手がどう反応したか。
誰に報告したか。
ここまであると、後から確認しやすいです。
感情ではなく事実を書く
たとえば、
「家族がかなり面倒な要求をしてきた」
ではなく、
長女より電話あり。「毎日17時に食事量を電話で教えてほしい」と希望あり。現場職員からは毎日の個別連絡は難しい旨を説明。管理者へ相談し、今後の連絡方法を検討することとなる。
このように残します。
記録は、
家族を悪者にするためのものではありません。
職員間で対応を統一するためのものです。
家族によって職員の説明が違うとトラブルになる
A職員は、
「できます」
と言った。
B職員は、
「できません」
と言った。
これが一番ややこしくなります。
家族からすると、
「人によって言うことが違う」
となります。
だから、重要な要望があった場合は、
職員間で共有したほうがいいです。
施設として回答を決める
できる。
条件付きでできる。
できない。
責任者から説明する。
こうした方向性を統一します。
一度決めたことは、
申し送り。
記録。
連絡ノート。
必要な方法で共有しておきます。
すると、
誰が対応しても同じ説明ができます。
強い口調で責められたときはどうする?
家族から強い言葉を受けると、どうしても焦ります。
「なんでこんなこともできないんですか」
「ちゃんと見てるんですか」
と言われると、
反射的に謝り続けてしまう人もいます。
でも、内容を確認する前に、
何でも謝る必要はありません。
まず内容を聞く
相手が何に不満を感じているのか。
事実はどうなのか。
そこを確認します。
「ご心配をおかけしている点について、まず状況を確認させてください」
という形でも構いません。
事実確認前に約束しない
「今後絶対にありません」
「必ず毎日対応します」
など、その場で約束してしまうと後で困ります。
確認が必要なら、
「一度確認して、改めてご連絡します」
で大丈夫です。
感情的に言い返さない
こちらも人間なので、
理不尽なことを言われれば腹が立ちます。
でも、
「それは無理です!」
「そんな言い方しないでください!」
とその場で感情的に返すと、さらに悪化することがあります。
必要であれば一度話を区切り、
上司へ相談します。
家族からのクレームを全部悪いものだと思わない
家族対応で疲れてくると、
電話が鳴っただけで、
「またクレームかな」
と思うようになることがあります。
でも、
家族からの意見の中には、
施設側が気づいていない問題が含まれていることもあります。
たとえば、
連絡不足。
職員間の情報共有不足。
説明が分かりにくい。
私物管理のミス。
こうしたことは、改善できる部分です。
クレームという言葉だけで、
「面倒な家族」
と決めつけないほうがいいです。
大切なのは、
内容を見ることです。
妥当な指摘なら改善する。
無理な要求なら線を引く。
ここを分けて考えます。
家族も不安を抱えていることがある
家族対応が少し楽になる考え方があります。
それは、
「この人は何が不安なんだろう」
と考えることです。
たとえば、
何度も電話をしてくる家族。
毎回細かく確認する家族。
一見すると、
「細かいな」
と思うかもしれません。
でも、
施設に預けることへの罪悪感。
離れて暮らす不安。
以前に事故があった経験。
自分で介護できないことへの葛藤。
そういう背景があることもあります。
もちろん、
事情があるから何を言ってもいい、
ということではありません。
ただ、
不安が強い人なのかもしれない。
と考えるだけで、対応の仕方が変わることがあります。
管理者側がやるべきこと
家族対応で現場職員が疲れているなら、管理者側も考える必要があります。
「現場で対応して」
だけでは、職員は疲れてしまいます。
職員の話を聞く
まず、
何があったのか。
何を言われたのか。
どこがつらかったのか。
聞きます。
家族対応は、
表面上は普通に対応できていても、職員の中ではかなり負担になっていることがあります。
責任者が前に出る
家族からの強い要求。
重大な苦情。
契約に関わること。
職員個人への攻撃。
こういう場合は、責任者が対応したほうがいいです。
現場職員をずっと矢面に立たせる必要はありません。
施設として線引きをする
何ができるのか。
何ができないのか。
曖昧なままだと現場が困ります。
特別対応をするなら、
なぜ必要なのか。
いつまで行うのか。
施設として決めます。
「家族対応が怖い」と感じたら一人で対応しなくていい
一度強く怒鳴られたり、何度も責められたりすると、
その家族から電話が来るだけで緊張することがあります。
「また何か言われるんじゃないか」
と思ってしまう。
それも自然な反応です。
そんなときは、
一人で対応しなくていいです。
上司に同席してもらう。
電話を代わってもらう。
面談を複数人で行う。
記録を残す。
できるだけ個人に負担を集中させないようにします。
家族対応で疲れ切っているなら、職場側の体制も見てほしい
家族対応が大変なのは、介護の仕事ではある程度あります。
でも、
何かあるたびに現場職員だけに任せる。
管理者が出てこない。
対応方針が毎回違う。
クレームがあっても職員だけが謝る。
こうした職場なら、かなり疲れます。
問題は、
「家族対応があること」
ではなく、
家族対応を職員一人に背負わせる職場になっていないか
です。
もし相談しても何も変わらず、
家族対応のたびに強いストレスを感じているなら、
職場環境そのものを見直すことも選択肢です。
まとめ|家族対応は「一人で何とかする仕事」じゃない
介護職の家族対応は、簡単ではありません。
正当な要望。
不安。
クレーム。
無理な要求。
いろいろなものがあります。
だからこそ、
全部受ける。
全部断る。
という対応ではなく、
一つずつ内容を見ていくことが大切です。
そして、
現場職員だけで判断しなくていいものは、
管理者や相談員につなぐ。
記録を残す。
職員間で対応を統一する。
施設として線引きをする。
これが必要です。
ご家族を大切にすることと、
職員が何でも我慢することは同じではありません。
家族対応で疲れている人ほど、
「自分の対応が悪いのかな」
と考えがちです。
でも、
一人で抱え込まないでください。
介護はチームで行う仕事です。
家族対応も同じです。
困ったときに誰かへつなげられることも、現場で働き続けるための大切な力です。