「始業前に申し送りを確認しておいて」
「記録が終わらないから、勤務後に少しだけ残る」
「研修動画は家で見ておいて」
「委員会は勤務後だけど、みんな出てるから」
介護現場では、こういうことが起きることがあります。
一つひとつは10分、15分かもしれません。
でも、それが毎日続けば話は別です。
たとえば毎日15分の早出と15分の残業があれば、1日30分。
月20日働けば、10時間になります。
年間ならかなりの時間です。
それなのに、
「介護職ならこれくらい普通」
「みんなやってるから」
で流されてしまうことがあります。
でも、厚生労働省は、介護サービスを直接提供している時間だけでなく、使用者の指揮命令下にある引き継ぎ、記録作成、会議、施設行事の準備、一定の研修なども労働時間になり得ると示しています。厚生労働省
この記事では、
- 介護現場で起きやすいサービス残業
- 始業前の準備や申し送りはどう考えるのか
- 勤務後の記録は残業になるのか
- 研修や会議は勤務時間なのか
- 「自分から早く来ているだけ」と言われた場合
- サービス残業が続いているときの対処法
について、現場を知っている立場から整理していきます。
法律の話だけで終わらせず、実際の介護現場でどう考えればいいのかを中心に話します。
介護職のサービス残業は「仕方ない」で終わらせない
まず、
サービス残業が介護職だから当然というわけではありません。
介護は利用者さん相手の仕事です。
定時になったから、
「はい、ここまで」
とすぐ帰れない場面は確かにあります。
急変。
転倒。
排泄対応。
ご家族からの電話。
申し送り。
どうしても勤務終了時間を超える日はあります。
これは現場で働いていれば分かると思います。
問題なのは、
残業が発生すること自体ではありません。
残業しているのに、それが労働時間として扱われていないことです。
ここは分けて考えたほうがいいです。
「忙しい介護施設だから残業がある」
と、
「残業しても給料がつかない」
は同じ話じゃありません。
介護現場で起きやすいサービス残業
介護職のサービス残業というと、
勤務後に1時間残るようなケースだけではありません。
むしろ問題になりやすいのは、
10分、15分くらいの小さな時間
だと思います。
始業前の申し送り確認
たとえば勤務開始が9時。
でも先輩から、
「9時には現場に出られるように、8時45分くらいには来て申し送りを確認してね」
と言われる。
こういう職場はあります。
本人も、
「仕事を覚えるためだから」
と思って早めに来る。
それが毎日の習慣になる。
厚生労働省は、交替勤務の引き継ぎ時間なども、使用者の指揮命令下にある場合は労働時間として適切に把握する必要があるとしています。厚生労働省
つまり、
「始業前だから何をしても勤務時間外」
というわけではありません。
勤務後の介護記録
これも本当によくあります。
介助が忙しくて記録を書く時間がない。
勤務終了時間になる。
そこからパソコンに座って記録を書く。
15分。
30分。
日によってはもっとかかる。
でもタイムカードは先に打つ。
もしそれが職場で当たり前になっているなら、一度考えたほうがいいです。
厚生労働省は、業務報告書などの作成時間についても、労働時間として適正に把握・管理する必要があるとしています。厚生労働省
記録は、
「仕事が遅いから個人的にやっていること」
ではなく、
そもそも介護業務の一部です。
委員会や会議
介護施設では、
事故防止委員会。
虐待防止委員会。
感染対策。
身体拘束。
研修。
カンファレンス。
など、さまざまな会議があります。
勤務中に行えるならいいですが、
「業務が終わってから30分だけ」
というケースもあります。
会議への参加が業務として求められているなら、その時間も労働時間として扱われる可能性があります。
厚生労働省も、利用者サービスに関する打ち合わせや会議などを労働時間として把握する必要があるとしています。厚生労働省
研修は勤務時間になるの?
ここはかなり迷いやすいところです。
「研修なんだから勉強でしょ」
と思う人もいます。
たしかに、自分が完全に自主的に参加する勉強会まで、すべて仕事になるとは限りません。
でも、
「全員受講してください」
「受けないと業務できません」
「期限までに研修動画を見てください」
など、実質的に参加が必要になっている研修は話が変わります。
厚生労働省は、使用者の明示的な指示に基づく研修や、参加しなければ不利益が生じるなど実質的に出席が強制される研修について、労働時間に該当すると説明しています。厚生労働省
たとえば、
「虐待防止研修の動画を家で見ておいて」
と言われる。
でも見ないと受講済みにならない。
全職員必須。
こういうケースなら、
「家で見たから仕事じゃない」
とは単純に言えません。
「タイムカードを打ってから残って」はおかしい
これはかなり分かりやすいです。
「先にタイムカード切って」
「残業つけると怒られるから」
「このくらいなら残業申請しなくていいよね」
こうした言葉が職場で普通になっているなら注意したほうがいいです。
残業時間を正しく記録しなければ、
職場側からすると、
「定時で業務が終わっている」
ように見えます。
すると、
人員配置も変わらない。
業務量も変わらない。
さらに、
「この人数で回せている」
と判断されます。
現場では毎日30分残っているのに、
書類上は残業ゼロ。
これでは問題が見えません。
「自分が勝手に早く来ているだけ」と言われたら?
ここが少し難しいところです。
たとえば、
勤務開始9時。
本人が心配なので8時半に来ている。
誰にも言われていない。
30分間コーヒーを飲んでいる。
これは単純に労働時間とは言いにくいです。
一方で、
「8時45分までに来て申し送りを読んでください」
と指示されている。
あるいは、
明確な指示はなくても、早く来なければ仕事が始められない仕組みになっている。
こういうケースでは話が変わります。
厚生労働省は、労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」としており、明示的な指示だけでなく黙示の指示によって業務をしている時間も考慮されます。都道府県労働局所在地一覧
だから、
「早く来たのは本人だから」
という一言だけでは判断できません。
なぜ早く来ているのか
を見る必要があります。
15分未満は残業にならない?
介護現場に限らず、
「15分単位だから」
という話を聞くことがあります。
たとえば、
17時35分まで働いた。
でも残業は17時45分からしかつかない。
そんな運用です。
最近の労働局資料でも、介護事業者に対して、労働時間は原則として日々1分単位で集計する必要があると案内されています。都道府県労働局所在地一覧
少なくとも、
毎日10分、20分という実際の労働時間を一律で切り捨てるような考え方には注意が必要です。
「たった10分」
でも、
その10分が毎日なら大きいです。
休憩中に記録を書くのも同じ問題
前の記事でも触れましたが、
昼休憩中に記録を書く。
食事をしながら連絡帳を書く。
休憩室で業務スマホを見る。
こういうケースもあります。
本人としては、
「残業したくないから休憩中にやっている」
ということもあるでしょう。
でも、それでは結局、
自分の休憩時間を仕事に使っています。
サービス残業だけではなく、
サービス労働
という意味では同じ問題です。
時間外労働を減らすために休憩を削る。
これは解決とは言えません。
新人ほどサービス残業をしやすい
新人職員は特に注意したいです。
仕事を覚えるのが遅い。
記録を書くのに時間がかかる。
先輩より介助に時間がかかる。
すると、
「自分が遅いから残っているだけ」
と思ってしまいます。
もちろん、経験を積めば業務スピードは上がります。
そこは事実です。
でも、
新人だから残業代をもらえない。
という話ではありません。
むしろ新人が毎日残らなければ終わらないのであれば、
教育方法。
業務量。
独り立ちのタイミング。
こうした部分を見直す必要があるかもしれません。
管理者側から見ると「勝手に残っている」ケースもある
ここは現場だけでなく、管理する側の視点も入れておきます。
管理者から、
「もう帰っていいよ」
と言っている。
それでも本人が、
「これだけやってから帰ります」
と残る。
こういうケースも実際にあります。
特に真面目な職員ほど、
全部終わらせてから帰ろうとします。
でも、
介護現場では仕事を探せばいくらでもあります。
記録整理。
備品補充。
居室整理。
翌日の準備。
全部完璧に終わるまで待っていたら帰れません。
だから管理側にも、
何を今日やる必要があるのか
何を翌日に回せるのか
を整理する役割があります。
そして、実際に残業が必要なら、
正式に残業として扱う。
ここを曖昧にしないことが大切です。
サービス残業が発生する職場には理由がある
職員個人だけの問題ではないことも多いです。
人手不足
単純に、業務量に対して職員が足りない。
すると勤務時間内に記録まで終わりません。
記録方法が非効率
同じことを、
介護記録。
申し送りノート。
チェック表。
複数箇所に書いている。
こうした職場もあります。
記録のやり方そのものを見直せば、残業を減らせる可能性があります。
「残るのが当たり前」という文化
一番厄介なのがこれです。
先輩が残っている。
だから帰れない。
上司より先に帰りづらい。
新人が定時で帰ると、
「もう帰るの?」
と言われる。
こうした空気は、就業規則には書いてありません。
でも職員にはかなり影響します。
「みんなやってるから」は理由にならない
サービス残業が長く続いている職場では、
「昔からそうだから」
という言葉が出ます。
でも、
昔から続いていることと、
適切であることは別です。
むしろ、
昔から続いているからこそ、誰も疑問に思わなくなっていることがあります。
新人が、
「これ、残業にならないんですか?」
と言う。
そこで初めて、
「あれ?」
となる。
そういうこともあります。
まずは自分の勤務時間を記録してみる
もし、
「自分ってサービス残業しているのかな」
と思ったら、
まず実際の時間を記録してみるといいです。
たとえば一週間、
出勤した時間。
実際に業務を始めた時間。
退勤予定時間。
実際に仕事が終わった時間。
休憩中に仕事をした時間。
を書いてみます。
感覚だけだと、
「そんなに残っていない」
と思うことがあります。
でも数字にすると、
毎日25分。
週に2時間以上。
ということもあります。
記録を残しておくことは、上司へ相談するときにも役立ちます。
上司に相談するときは具体的に伝える
「残業が多いです」
だけでは、原因が分かりにくいです。
たとえば、
「遅番の日は夕食介助が終わるのが19時半で、そのあと記録に30分ほどかかっています」
と伝える。
これなら、
記録時間を勤務内に作る。
担当業務を変える。
記録方法を見直す。
など対策を考えられます。
大事なのは、
誰が悪いかを決めることではなく、なぜ勤務時間内に終わらないのかを見ることです。
サービス残業を減らすには職場全体で考える必要がある
職員に、
「早く仕事してください」
と言うだけでは限界があります。
たとえば、
申し送りを短くする。
記録を簡素化する。
ICTを使う。
業務分担を変える。
委員会を勤務時間内に行う。
研修時間を勤務として組み込む。
残業申請しやすい雰囲気を作る。
こうしたことも必要です。
介護現場の業務改善は、
職員を楽にするだけではありません。
余裕ができれば、
利用者さんと関わる時間も増えます。
何度相談しても変わらない職場なら
早出。
記録。
研修。
会議。
すべて勤務時間外。
相談しても、
「介護はそういうもの」
「嫌なら辞めれば?」
と言われる。
そんな状態なら、
職場そのものについて考えてもいいと思います。
同じ介護職でも、
勤怠管理の方法。
残業時間。
記録方法。
研修の扱い。
職場によって違います。
今の職場しか知らないと、
「介護業界は全部こう」
と思ってしまいます。
でも、必ずしもそうではありません。
実際、厚生労働省は現在も介護事業所向けに、引き継ぎ、書類作成、会議、研修などが適切に労働時間として扱われているかを確認する自主点検を行っています。
つまり、
介護業界だから労働時間管理を曖昧にしていいわけではありません。
まとめ|介護の仕事だから「タダ働き」が普通になるわけじゃない
介護職には、
時間どおりに終わりにくい日があります。
急変。
事故。
コール。
家族対応。
利用者さん相手の仕事なので、予定外のことは起きます。
でも、
始業前の申し送り。
勤務後の記録。
会議。
必須研修。
こうした業務が毎日のように勤務時間の外へ追い出されているなら、
「仕方ない」
で終わらせる必要はありません。
まず、
自分が何に時間を使っているのか。
なぜ残業になっているのか。
その時間は勤務として扱われているのか。
確認してみてください。
介護職が頑張ることと、
無償で働くことは別です。
そして、
残業を減らすというのは、
単に早く帰るためだけではありません。
職員に余裕ができる。
利用者さんに向き合える。
長く働ける。
結果として、介護の質にもつながります。
「みんなやっているから」で終わらせず、働いた時間はきちんと働いた時間として扱われる。
そんな職場であることも、介護職を長く続けるためには大切だと思います。